【研究成果の概要】
名古屋市立大学大学院医学研究科脳神経科学研究所の澤本和延教授(生理学研究所兼任)、名古屋市立大学大学院医学研究科新生児・小児医学分野の川瀬恒哉助教、近畿大学生物理工学部生命情報工学科の財津桂教授、国立研究開発法人産業技術総合研究所の井口亮主任研究員らの研究グループは、コペンハーゲン大学、Children's National Hospitalなどの研究者と共同で、出生によって引き起こされるグルタミン代謝変動によって、胎児期の神経幹細胞である放射状グリアが静止的な状態を獲得し、生後の神経幹細胞としての長期間の維持が可能になることを発見しました。早産で出生すると、このプロセスが障害され、放射状グリアが一時的に過剰に活性化することを見出しました。この結果、早産では神経幹細胞が枯渇し、生後のニューロン新生が低下することが明らかになりました。早産で出生した後に、放射状グリアを静止的な状態にすることで、生後のニューロン新生が改善しました。
【研究のポイント】
●メタボローム解析*1、シングルセル遺伝子発現解析*2 といった最先端技術を駆使して、「出生」によって神経幹細胞に引き起こされる分子動態を明らかにしました。
●胎児期の神経幹細胞である放射状グリア*3 が、出生後に静止化*4 を獲得し、生後の神経幹細胞として維持されるためには、適切な出生のタイミングでグルタミン代謝変動が起きることが必要であることを明らかにしました。
●早産児の神経発達予後はいまだ不良であり、病態の解明・治療法の開発は急務です。本研究ではマウスのみならず、ヒト早産児の剖検脳を用いた解析から、早産によって「生後のニューロン新生の低下」が引き起こされることを世界で初めて明らかにしました。
●この病態をターゲットとして、早産児の神経発達予後を改善させる治療法の開発が期待できます。
【背景】
「出生」は生体にとって最大のライフイベントです。子宮内から子宮外へと環境が変化することによって、生体にはさまざまな代謝変動が引き起こされます。しかし、「出生」というイベントが生体の発達過程においてどのような意義をもつのか、その多くは謎に包まれたままです。
ヒトを含む哺乳類の生後の脳には、側脳室の外側壁にある脳室下帯という領域に神経幹細胞が存在し、生後も神経細胞(ニューロン)を産生しつづけています。この生後のニューロン新生は、ヒトにおいては1歳半ころまでには消失することが知られており、特に新生児・乳児期の脳発達に重要な役割を担っていると考えられています。生後の神経幹細胞は、その多くが静止的な状態にあり、それによって神経幹細胞が枯渇せず長期間維持され、継続的なニューロン新生が可能となります。一方、生後の神経幹細胞の起源である放射状グリアは、胎児期の脳を形成するために活発に分裂し、神経前駆細胞を多く産生しています。すなわち、神経幹細胞は胎児期では活性化状態にありますが、生後は静止化状態を獲得します。しかし、「出生」というイベントが、どのように神経幹細胞の静止化の獲得に寄与しているかは明らかにされていませんでした。
また、近年の周産期医療の進歩により早産児の救命率は向上していますが、その神経発達予後はいまだに不良です。特に早産児では神経発達症の合併が多く、社会的な問題になっていますが、その病態は十分に理解されていません。そのため、早産児脳障害の病態の解明・治療法の開発が急務となっています。「出生」によって神経幹細胞に引き起こされる分子動態を明らかにすることで、これらの課題の解決につながることが期待されます。
【研究の成果】
本研究では、出生予定日に生まれる正期産マウスと、予定日より1日早く出生する早産マウスを用いました。本研究ではまず脳室下帯のメタボローム解析を行いました。早産マウスの脳室下帯では、正期産マウスに比べて乳酸・α-ケトグルタル酸・グルタミン酸が高値となることがわかりました。次に脳室下帯のシングルセル遺伝子発現解析を行いました。放射状グリアでは、正期出生にともなってグルタミン酸からグルタミンを合成する酵素(グルタミンシンセターゼ)をコードする遺伝子であるGlulの発現が上昇することがわかりました。一方、早産マウスでは放射状グリアにおけるGlulの発現上昇が不完全であることがわかりました。さらにシングルセル遺伝子発現解析から、正期出生にともなって放射状グリアが静止化を獲得する一方で、早産マウスでは出生後の静止化獲得が不完全であることがわかりました。
免疫組織学的な解析から、早産マウスでは正期産マウスに比べて放射状グリアにおけるmTORシグナル*5 が亢進していることが明らかとなりました。これにより早産マウスでは放射状グリアが一時的に過剰に活性化し、神経前駆細胞を多く産生することがわかりました。しかし、その後は神経幹細胞が枯渇し、神経前駆細胞やニューロンの産生が低下することが明らかになりました。またヒト剖検脳を用いた解析から、早産児では正期産児に比べて脳室下帯の新生ニューロンの数が減少していることがわかりました(図A)。これらのことから、早産によって「生後のニューロン新生の低下」が引き起こされることがわかりました。
さらに、正期産マウスと早産マウスにおける放射状グリアのGlulの発現を調節することで、mTORシグナルが変動し、神経幹細胞としての活性状態が変化することがわかりました。すなわち、正期出生にともなって、放射状グリアにおいてGlulの発現が上昇することで、mTORシグナルが低下し、神経幹細胞としての静止化が獲得されることがわかりました(図B)。早産マウスでは、放射状グリアにおけるGlulの発現上昇が不完全であり、mTORシグナルが正期産マウスに比べて亢進した結果、神経幹細胞としての静止化の獲得が障害されることを突きとめました。最後に、早産マウスの出生後にmTORシグナルの阻害薬であるラパマイシンを投与すると、放射状グリアの静止化が獲得され、その結果、神経幹細胞の枯渇が防がれ、生後のニューロン新生が改善することが明らかになりました(図C)。
これらの結果から、適切な出生のタイミングでグルタミン代謝変動が起きることが、生後の神経幹細胞の静止化獲得に必要であることが明らかとなりました。本研究により、神経幹細胞の維持における出生の意義が明らかとなりました。
【研究の意義と今後の展開や社会的意義など】
出生にともなうグルタミン代謝変動は、神経幹細胞以外のさまざまな組織幹細胞の運命にも関わっている可能性があります。本研究は、生体の恒常性の維持や傷害後の再生能力に関わる新しい分子メカニズムの発見であり、生命科学全体に大きなインパクトを与えると考えられます。また、神経幹細胞が静止化を獲得するプロセスが解明されたことによって、なぜ大人の脳は再生しにくいのか、という謎を解く手がかりになる可能性があります。
近年、早産児の出生が増加しており、その神経発達予後の改善は社会的にも重要な課題です。本研究によって、「生後のニューロン新生の低下」という新たな早産児脳障害の病態が明らかになるとともに、この病態が治療ターゲットになることが示されました。本研究の成果によって、早産児の神経発達予後を改善させる治療法の開発につながることが期待されます。さらには神経幹細胞の機能を活性化することによって、大人の脳梗塞などの治療法の開発にもつながることが期待されます。
名古屋市立大学大学院医学研究科脳神経科学研究所の澤本和延教授(生理学研究所兼任)、名古屋市立大学大学院医学研究科新生児・小児医学分野の川瀬恒哉助教、近畿大学生物理工学部生命情報工学科の財津桂教授、国立研究開発法人産業技術総合研究所の井口亮主任研究員らの研究グループは、コペンハーゲン大学、Children's National Hospitalなどの研究者と共同で、出生によって引き起こされるグルタミン代謝変動によって、胎児期の神経幹細胞である放射状グリアが静止的な状態を獲得し、生後の神経幹細胞としての長期間の維持が可能になることを発見しました。早産で出生すると、このプロセスが障害され、放射状グリアが一時的に過剰に活性化することを見出しました。この結果、早産では神経幹細胞が枯渇し、生後のニューロン新生が低下することが明らかになりました。早産で出生した後に、放射状グリアを静止的な状態にすることで、生後のニューロン新生が改善しました。
【研究のポイント】
●メタボローム解析*1、シングルセル遺伝子発現解析*2 といった最先端技術を駆使して、「出生」によって神経幹細胞に引き起こされる分子動態を明らかにしました。
●胎児期の神経幹細胞である放射状グリア*3 が、出生後に静止化*4 を獲得し、生後の神経幹細胞として維持されるためには、適切な出生のタイミングでグルタミン代謝変動が起きることが必要であることを明らかにしました。
●早産児の神経発達予後はいまだ不良であり、病態の解明・治療法の開発は急務です。本研究ではマウスのみならず、ヒト早産児の剖検脳を用いた解析から、早産によって「生後のニューロン新生の低下」が引き起こされることを世界で初めて明らかにしました。
●この病態をターゲットとして、早産児の神経発達予後を改善させる治療法の開発が期待できます。
【背景】
「出生」は生体にとって最大のライフイベントです。子宮内から子宮外へと環境が変化することによって、生体にはさまざまな代謝変動が引き起こされます。しかし、「出生」というイベントが生体の発達過程においてどのような意義をもつのか、その多くは謎に包まれたままです。
ヒトを含む哺乳類の生後の脳には、側脳室の外側壁にある脳室下帯という領域に神経幹細胞が存在し、生後も神経細胞(ニューロン)を産生しつづけています。この生後のニューロン新生は、ヒトにおいては1歳半ころまでには消失することが知られており、特に新生児・乳児期の脳発達に重要な役割を担っていると考えられています。生後の神経幹細胞は、その多くが静止的な状態にあり、それによって神経幹細胞が枯渇せず長期間維持され、継続的なニューロン新生が可能となります。一方、生後の神経幹細胞の起源である放射状グリアは、胎児期の脳を形成するために活発に分裂し、神経前駆細胞を多く産生しています。すなわち、神経幹細胞は胎児期では活性化状態にありますが、生後は静止化状態を獲得します。しかし、「出生」というイベントが、どのように神経幹細胞の静止化の獲得に寄与しているかは明らかにされていませんでした。
また、近年の周産期医療の進歩により早産児の救命率は向上していますが、その神経発達予後はいまだに不良です。特に早産児では神経発達症の合併が多く、社会的な問題になっていますが、その病態は十分に理解されていません。そのため、早産児脳障害の病態の解明・治療法の開発が急務となっています。「出生」によって神経幹細胞に引き起こされる分子動態を明らかにすることで、これらの課題の解決につながることが期待されます。
【研究の成果】
本研究では、出生予定日に生まれる正期産マウスと、予定日より1日早く出生する早産マウスを用いました。本研究ではまず脳室下帯のメタボローム解析を行いました。早産マウスの脳室下帯では、正期産マウスに比べて乳酸・α-ケトグルタル酸・グルタミン酸が高値となることがわかりました。次に脳室下帯のシングルセル遺伝子発現解析を行いました。放射状グリアでは、正期出生にともなってグルタミン酸からグルタミンを合成する酵素(グルタミンシンセターゼ)をコードする遺伝子であるGlulの発現が上昇することがわかりました。一方、早産マウスでは放射状グリアにおけるGlulの発現上昇が不完全であることがわかりました。さらにシングルセル遺伝子発現解析から、正期出生にともなって放射状グリアが静止化を獲得する一方で、早産マウスでは出生後の静止化獲得が不完全であることがわかりました。
免疫組織学的な解析から、早産マウスでは正期産マウスに比べて放射状グリアにおけるmTORシグナル*5 が亢進していることが明らかとなりました。これにより早産マウスでは放射状グリアが一時的に過剰に活性化し、神経前駆細胞を多く産生することがわかりました。しかし、その後は神経幹細胞が枯渇し、神経前駆細胞やニューロンの産生が低下することが明らかになりました。またヒト剖検脳を用いた解析から、早産児では正期産児に比べて脳室下帯の新生ニューロンの数が減少していることがわかりました(図A)。これらのことから、早産によって「生後のニューロン新生の低下」が引き起こされることがわかりました。
さらに、正期産マウスと早産マウスにおける放射状グリアのGlulの発現を調節することで、mTORシグナルが変動し、神経幹細胞としての活性状態が変化することがわかりました。すなわち、正期出生にともなって、放射状グリアにおいてGlulの発現が上昇することで、mTORシグナルが低下し、神経幹細胞としての静止化が獲得されることがわかりました(図B)。早産マウスでは、放射状グリアにおけるGlulの発現上昇が不完全であり、mTORシグナルが正期産マウスに比べて亢進した結果、神経幹細胞としての静止化の獲得が障害されることを突きとめました。最後に、早産マウスの出生後にmTORシグナルの阻害薬であるラパマイシンを投与すると、放射状グリアの静止化が獲得され、その結果、神経幹細胞の枯渇が防がれ、生後のニューロン新生が改善することが明らかになりました(図C)。
これらの結果から、適切な出生のタイミングでグルタミン代謝変動が起きることが、生後の神経幹細胞の静止化獲得に必要であることが明らかとなりました。本研究により、神経幹細胞の維持における出生の意義が明らかとなりました。
【研究の意義と今後の展開や社会的意義など】
出生にともなうグルタミン代謝変動は、神経幹細胞以外のさまざまな組織幹細胞の運命にも関わっている可能性があります。本研究は、生体の恒常性の維持や傷害後の再生能力に関わる新しい分子メカニズムの発見であり、生命科学全体に大きなインパクトを与えると考えられます。また、神経幹細胞が静止化を獲得するプロセスが解明されたことによって、なぜ大人の脳は再生しにくいのか、という謎を解く手がかりになる可能性があります。
近年、早産児の出生が増加しており、その神経発達予後の改善は社会的にも重要な課題です。本研究によって、「生後のニューロン新生の低下」という新たな早産児脳障害の病態が明らかになるとともに、この病態が治療ターゲットになることが示されました。本研究の成果によって、早産児の神経発達予後を改善させる治療法の開発につながることが期待されます。さらには神経幹細胞の機能を活性化することによって、大人の脳梗塞などの治療法の開発にもつながることが期待されます。
© 2025 Kawase et al. Originally published in Science Advances
DOI番号:10.1126/sciadv.adn6377
A. ヒトの剖検脳の解析。早産児では脳室下帯の新生ニューロン(緑色)が減少する。
B. 正期出生によって、放射状グリアにおけるGlulの発現が上昇する。この結果、mTORシグナルが低下し、神経幹細胞としての静止化が獲得され、神経幹細胞の維持が可能となる。
C. 早産で出生すると、放射状グリアにおけるGlulの発現上昇が不完全となる。この結果、mTORシグナルが一時的に亢進し、神経幹細胞としての静止化が障害され、神経幹細胞が枯渇することにより、生後のニューロン新生が低下する。早産で出生した後にmTORシグナルの阻害薬であるラパマイシンを投与することによって、放射状グリアの静止化が獲得され、その結果、神経幹細胞の枯渇が防がれ、生後のニューロン新生が改善する。
【用語解説】
*1 メタボローム解析
組織中の代謝物質を網羅的に解析する技術。メタボローム解析を用いることで、生体内の代謝がどのように変化しているかを把握することが可能となる。
*2 シングルセル遺伝子発現解析
1万細胞以上の細胞集団から、1細胞ごとの遺伝子転写産物(メッセンジャーRNA)の種類と量を網羅的に検出する技術。それぞれの細胞種に特徴的に発現する遺伝子を同定することが可能となる。
*3 放射状グリア
胎生期脳の発生過程における神経幹細胞。脳表まで伸びる細長い突起をもつが、出生後にはこの突起が短縮し、生後の神経幹細胞へと変化する。
*4 静止化
幹細胞が分裂せず、前駆細胞への分化も起きにくい状態。生後の神経幹細胞の多くは静止化を維持しており、これによって、幹細胞が枯渇せず長期的なニューロン新生が可能になる。
*5 mTOR(mechanistic Target of Rapamycin)シグナル
細胞増殖を促進するシグナル伝達ネットワーク。mTORシグナルの異常は、がんや心血管疾患、糖尿病など、多くの病態に関与していることが報告されている。
【研究助成】
本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)の革新的先端研究開発支援事業(AMED-CREST)「生体組織の適応・修復機構の時空間的解析による生命現象の理解と医療技術シーズの創出」研究開発領域における研究開発課題「ニューロン移動による傷害脳の適応・修復機構とその操作技術」(研究開発代表者:澤本和延)、文部科学省・日本学術振興会 科学研究費助成事業における研究開発課題「新生児脳におけるニューロン新生とその病態:先端分析技術による統合的理解」(研究開発代表者:澤本和延)、「早産児脳傷害の包括的病態解明と神経再生促進技術の開発」(研究開発代表者:川瀬恒哉)、日本学術振興会研究拠点形成事業(先端拠点形成型)「国際ニューロン新生研究拠点」、武田科学振興財団、上原記念生命科学財団、母子健康協会、武田科学振興財団、小児医学研究振興財団、堀科学芸術振興財団などによる助成を受けて行われました。
【論文タイトル】
Significance of birth in the maintenance of quiescent neural stem cells
【著者】
川瀬恒哉1,2,a, 中村泰久1,2,3,a, Laura Wolbeck4,a, 竹村晶子1,a, 財津桂5, 安藤丈裕1, 神農英雄1,2,6, 澤田雅人1,7, 中嶋智佳子1, Rasmus Rydbirk4, 五軒矢桜1, 伊藤晃1, 藤山瞳1, 齋藤明里1, 井口亮8,9, Panagiotis Kratimenos6,10, Nobuyuki Ishibashi6, Vittorio Gallo6,11, 岩田欧介2, 齋藤伸治2, Konstantin Khodosevich4, 澤本和延1,7,b
1: 名古屋市立大学大学院 医学研究科 脳神経科学研究所 神経発達・再生医学分野
2: 名古屋市立大学大学院 医学研究科 新生児・小児医学分野
3: 名古屋市立大学医学部附属 西部医療センター 小児科
4: Biotech Research & Innovation Centre (BRIC), Faculty of Health and Medical Sciences, University of Copenhagen
5: 近畿大学 生物理工学部 生命情報工学科
6: Center for Neuroscience Research, Children's National Research Institute, Children's National Hospital
7: 自然科学研究機構 生理学研究所 神経発達・再生機構研究部門
8: 国立研究開発法人 産業技術総合研究所 地質情報研究部門
9: 国立研究開発法人 産業技術総合研究所 環境調和型産業技術研究ラボ
10: Division of Neonatology, Children's National Hospital
11: Norcliffe Foundation Center for Integrative Brain Research Seattle Children's Research Institute
a: 共同筆頭著者
b: 責任著者
【掲載学術誌】
学術誌名 : Science Advances
DOI番号:10.1126/sciadv.adn6377
【関連リンク】
生物理工学部 生命情報工学科 教授 財津桂(ザイツケイ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/2758-zaitsu-kei.html
生物理工学部
https://www.kindai.ac.jp/bost/
DOI番号:10.1126/sciadv.adn6377
A. ヒトの剖検脳の解析。早産児では脳室下帯の新生ニューロン(緑色)が減少する。
B. 正期出生によって、放射状グリアにおけるGlulの発現が上昇する。この結果、mTORシグナルが低下し、神経幹細胞としての静止化が獲得され、神経幹細胞の維持が可能となる。
C. 早産で出生すると、放射状グリアにおけるGlulの発現上昇が不完全となる。この結果、mTORシグナルが一時的に亢進し、神経幹細胞としての静止化が障害され、神経幹細胞が枯渇することにより、生後のニューロン新生が低下する。早産で出生した後にmTORシグナルの阻害薬であるラパマイシンを投与することによって、放射状グリアの静止化が獲得され、その結果、神経幹細胞の枯渇が防がれ、生後のニューロン新生が改善する。
【用語解説】
*1 メタボローム解析
組織中の代謝物質を網羅的に解析する技術。メタボローム解析を用いることで、生体内の代謝がどのように変化しているかを把握することが可能となる。
*2 シングルセル遺伝子発現解析
1万細胞以上の細胞集団から、1細胞ごとの遺伝子転写産物(メッセンジャーRNA)の種類と量を網羅的に検出する技術。それぞれの細胞種に特徴的に発現する遺伝子を同定することが可能となる。
*3 放射状グリア
胎生期脳の発生過程における神経幹細胞。脳表まで伸びる細長い突起をもつが、出生後にはこの突起が短縮し、生後の神経幹細胞へと変化する。
*4 静止化
幹細胞が分裂せず、前駆細胞への分化も起きにくい状態。生後の神経幹細胞の多くは静止化を維持しており、これによって、幹細胞が枯渇せず長期的なニューロン新生が可能になる。
*5 mTOR(mechanistic Target of Rapamycin)シグナル
細胞増殖を促進するシグナル伝達ネットワーク。mTORシグナルの異常は、がんや心血管疾患、糖尿病など、多くの病態に関与していることが報告されている。
【研究助成】
本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)の革新的先端研究開発支援事業(AMED-CREST)「生体組織の適応・修復機構の時空間的解析による生命現象の理解と医療技術シーズの創出」研究開発領域における研究開発課題「ニューロン移動による傷害脳の適応・修復機構とその操作技術」(研究開発代表者:澤本和延)、文部科学省・日本学術振興会 科学研究費助成事業における研究開発課題「新生児脳におけるニューロン新生とその病態:先端分析技術による統合的理解」(研究開発代表者:澤本和延)、「早産児脳傷害の包括的病態解明と神経再生促進技術の開発」(研究開発代表者:川瀬恒哉)、日本学術振興会研究拠点形成事業(先端拠点形成型)「国際ニューロン新生研究拠点」、武田科学振興財団、上原記念生命科学財団、母子健康協会、武田科学振興財団、小児医学研究振興財団、堀科学芸術振興財団などによる助成を受けて行われました。
【論文タイトル】
Significance of birth in the maintenance of quiescent neural stem cells
【著者】
川瀬恒哉1,2,a, 中村泰久1,2,3,a, Laura Wolbeck4,a, 竹村晶子1,a, 財津桂5, 安藤丈裕1, 神農英雄1,2,6, 澤田雅人1,7, 中嶋智佳子1, Rasmus Rydbirk4, 五軒矢桜1, 伊藤晃1, 藤山瞳1, 齋藤明里1, 井口亮8,9, Panagiotis Kratimenos6,10, Nobuyuki Ishibashi6, Vittorio Gallo6,11, 岩田欧介2, 齋藤伸治2, Konstantin Khodosevich4, 澤本和延1,7,b
1: 名古屋市立大学大学院 医学研究科 脳神経科学研究所 神経発達・再生医学分野
2: 名古屋市立大学大学院 医学研究科 新生児・小児医学分野
3: 名古屋市立大学医学部附属 西部医療センター 小児科
4: Biotech Research & Innovation Centre (BRIC), Faculty of Health and Medical Sciences, University of Copenhagen
5: 近畿大学 生物理工学部 生命情報工学科
6: Center for Neuroscience Research, Children's National Research Institute, Children's National Hospital
7: 自然科学研究機構 生理学研究所 神経発達・再生機構研究部門
8: 国立研究開発法人 産業技術総合研究所 地質情報研究部門
9: 国立研究開発法人 産業技術総合研究所 環境調和型産業技術研究ラボ
10: Division of Neonatology, Children's National Hospital
11: Norcliffe Foundation Center for Integrative Brain Research Seattle Children's Research Institute
a: 共同筆頭著者
b: 責任著者
【掲載学術誌】
学術誌名 : Science Advances
DOI番号:10.1126/sciadv.adn6377
【関連リンク】
生物理工学部 生命情報工学科 教授 財津桂(ザイツケイ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/2758-zaitsu-kei.html
生物理工学部
https://www.kindai.ac.jp/bost/
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