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    【産総研プレス】世界最大規模のタンパク質の電子状態計算に成功

    2005年11月28日 15:00
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    報道関係者各位
    プレスリリース
                                平成17年11月28日
                         独立行政法人 産業技術総合研究所

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           世界最大規模のタンパク質の電子状態計算に成功
     -スーパーコンピューティング国際会議SC|05で最優秀研究論文賞を受賞-
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    ■ ポイント ■
    ・20,000 原子を越える生体高分子の電子状態計算を世界で初めて実施。
    ・米国シアトルで開催されたスーパーコンピューティング国際会議SC|05において
    成果発表。
    ・高度な計算機利用技術と精緻な科学的成果が高く評価され最優秀研究論文賞を
    受賞。
    ・光合成反応の微視的メカニズム解明に向けて前進。

    ■ 概要 ■
    独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)
    グリッド研究センター【センター長 関口 智嗣】と計算科学研究部門
    【部門長 池庄司 民夫】は、<フラグメント分子軌道法(*1)>を光合成反応に
    関与する生体高分子に適用し、クラスタ型スーパーコンピュータ
    <AIST スーパークラスタ(*2)>を用いて、世界で初めて 20,000原子を越える
    巨大分子の高精度な電子状態計算に成功しました。
    この成果を、2005年11月に米国シアトルで開催された<スーパーコンピューティ
    ング国際会議 SC|05(*3)>で発表したところ、高度な計算機利用技術と精緻な
    科学的成果の両面から高い評価を得て、日本人としては初めて最優秀研究論文賞
    を受賞しました。
    (*1)(*2)(*3)は【用語の説明】をご参照下さい。

    ■ 背景・経緯 ■
    産総研は、国内最高の総演算性能を持つクラスタ計算機「AISTスーパークラスタ」
    を平成16年5月より運用を開始しました。
    ナノテクノロジーおよびバイオインフォマティクスのための計算資源を低コスト
    で提供し、たんぱく質等の生体物質の挙動解明など生命科学に関する研究のため
    の計算資源として利用を図ってきました。また、クラスタ計算機に適した大規模
    な分子の電子状態計算手法としてフラグメント分子軌道法(FMO法)を開発し、
    幅広い利用が期待されています。
    今回このAISTスーパークラスタとFMO法を用いて、大規模な分子の電子状態の
    計算を行い、スーパーコンピューティング国際会議SC|05に成果を投稿しました。
    SC|05 は約10,000人が参加するこの分野における最大級の国際会議で、発表論文
    の質が高いことで知られています。今年は、260件の論文投稿の中から63件の
    論文が採録され(採択率 24.2%)、さらにこの中から最優秀研究論文賞を受賞した
    ものです。

    ■ 研究の内容 ■
    対象とした分子は、紅色光合成細菌の一種Rhodopseudomonas viridis の
    膜タンパク質複合体で、4本のタンパク鎖の中に電子伝達系と呼ばれる一群の
    分子が埋め込まれています。電子伝達系は光合成反応において光のエネルギーを
    化学的なエネルギーに転換する重要な役割を果たしていますが、その反応過程に
    おいて周辺タンパク質の果たす役割に関してはまだよく分かっていません。
    こうした反応機構の理論的な解明には、タンパク質まで含めた系全体の電子状態
    が必要になりますが、従来の手法では計算に膨大な時間がかかるため、実用的
    ではありませんでした。
    今回の計算では、光合成系のフラグメント分子軌道計算をAISTスーパークラスタ
    のP-32クラスタ部300台(600プロセッサ)を用いて実施しました。73時間の大規模
    並列計算を安定して実行し、巨大分子の電子状態を高精度かつ高コストパフォー
    マンスに実行可能であることを実証しました。
    これは光合成反応中心の機構解明に迫るもので、将来的には人工光合成系の設計
    を通じて「炭素固定による地球温暖化防止」や「食糧不足問題の解決」などへの
    応用が期待されます。
    今回受けた評価は、スーパーコンピューティングにおいて重要なのは「高速な
    ハードウエア」だけではなく、「利用に即したソフトウエア」の開発であり、
    スーパーコンピュータ利用技術の確立が求められていることを示しています。

    ■ 用語の説明 ■
    <フラグメント分子軌道法>
    量子的な相互作用の局所性に基いて分子を小さな断片に分割し、各断片の電子
    状態から系全体を再構成するもので、巨大分子の電子状態計算を効率よく実行
    できるだけでなく、コストパフォーマンスに優れた手法です。しかし、計算の
    限界に挑戦するには精度を保ちながらフラグメントへ分割する技術、クラスタ
    計算機のCPU使用効率を向上する技術、通信のオーバヘッドを削減する技術、
    クラスタ計算機の運用技術などがすべて高いレベルで求められています。

    <AISTスーパークラスタ>
    たくさんの計算機をまとめて一つの計算システムとして構成したクラスタ型
    計算機。全体の計算性能を重視したサブクラスタ、個々の計算機のメモリ容量を
    重視したサブクラスタ、複数の独立した計算処理を同時に処理することを重視
    したサブクラスタから構成される。全体の総演算性能は14.6テラフロップス
    (1秒間に14.6兆回の演算)。2004年5月より稼動。

    <スーパーコンピューティング国際会議SC|05
                    ( http://sc05.supercomputing.org/ )>
    SC|05(International Conference for High Performance Computing,
    Networking, Storage and Analysis)は、米国計算機学会(ACM)と米国電気電子
    学会の共催で毎年開催される高性能計算に関する世界最大の国際会議。
    18回目の今年は、11月12日から18日の7日間、米国ワシントン州シアトル市で
    開催されました。

    ■ 関連資料 ■
    報道発表 「スーパークラスタ」
    http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2004/pr20040510/pr20040510.html
    報道発表 「SC|05の受賞者一覧」
    http://sc05.supercomputing.org/news/press_releases_11172005.php

    <論文題目>
    Full Electron Calculation Beyond 20,000 Atoms: Ground Electronic State
    of Photosynthetic Proteins
    和訳 2000原子超の光合成タンパク質の電子状態計算
    著者
    池上 努 Tsutomu Ikegami, (グリッド研究センター)
    石田豊和 Toyokazu Ishida, (計算科学研究部門)
    フェドロフ Dmitri G. Fedorov, (計算科学研究部門)
    北浦和夫 Kazuo Kitaura, (計算科学研究部門)
    稲富雄一 Yuichi Inadomi, (計算科学研究部門)
    梅田宏明 Hiroaki Umeda, (計算科学研究部門)
    横川三津夫 Mitsuo Yokokawa, (グリッド研究センター)
    関口智嗣 Satoshi Sekiguchi, (グリッド研究センター)


    ■ 本件問い合わせ先 ■
    独立行政法人 産業技術総合研究所
    グリッド研究センター 副研究センター長
    横川 三津夫
    〒305-8568 茨城県つくば市梅園1-1-1 中央第二
    TEL:029-862-6600 FAX:029-862-6601
    E-mail: grid-webmaster@m.aist.go.jp

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